東京高等裁判所 昭和49年(ネ)3010号・昭49年(ネ)3044号 判決
(以下、右鵜野英を第一審被告鵜野と、右渡辺金也を第一審原告と、右沢富彦を第一審参加人と、右東京白谷運輸株式会社を第一審被告白谷運輸と、右白谷重雄を第一審被告白谷という。)
主文
一 昭和四九年(ネ)第三、〇一〇号事件について。
第一審被告鵜野の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
第一審参加人の第一審被告鵜野に対する請求を棄却する。
第一審被告鵜野が別紙目録二記載の土地について賃借権を有することを第一審原告と第一審被告鵜野との間において確認する。
第一審被告白谷運輸及び同白谷は第一審被告鵜野に対し、別紙目録一記載の建物及び同目録二記載の土地中右建物の敷地部分以外の更地部分六〇坪を明渡し、かつ、連帯して昭和四五年二月八日以降右建物明渡済まで一か月金二万円、前同日以降右更地部分明渡済まで一か月金八万円の割合による金員を支払え。
第一審被告鵜野のその余の請求を棄却する。
二 昭和四九年(ネ)第三、〇四四号事件について。
第一審被告白谷運輸及び同白谷の各控訴を棄却する。
三 訴訟の総費用中、第一審参加人と第一審被告鵜野との間に生じた分は第一審参加人の負担とし、第一審被告鵜野と第一審原告との間に生じた分は第一審原告の負担とし、第一審被告鵜野と第一審被告白谷運輸及び同白谷との間に生じた分は第一審被告白谷運輸及び同白谷の負担とする。
事実
第一各当事者の求めた裁判
一 昭和四九年(ネ)第三、〇一〇号事件について。
第一審被告鵜野代理人は、
1 「原判決中第一審参加人の第一審被告鵜野に対する請求に関する部分を取り消す。第一審参加人の右請求を棄却する。右請求に関する訴訟費用は第一、二審とも第一審参加人の負担とする。」との判決
2 「原判決中第一審被告鵜野の第一審原告に対する請求に関する部分を取り消す。第一審原告と第一審被告鵜野との間において、第一審被告鵜野が別紙目録二記載の土地について賃借権を有することを確認する。右請求に関する訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決
3 「原判決中第一審被告鵜野の第一審被告白谷運輸及び同白谷に対する請求に関する部分を次のとおり変更する。第一審被告白谷運輸及び同白谷の両名は第一審被告鵜野に対し、別紙目録一記載の建物から退去して同目録二記載の土地を明渡し、かつ、連帯して昭和四五年二月八日以降右明渡済まで一か月金一〇万円の割合による金員を支払え。右請求に関する訴訟費用は第一、二審とも第一審被告白谷運輸及び同白谷の両名の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言
を求め、第一審原告代理人、第一審参加人代理人並びに第一審被告白谷運輸及び同白谷代理人は、いずれも控訴棄却の判決を求めた。
二 昭和四九年(ネ)第三、〇四四号事件について。
第一審被告白谷運輸及び同白谷代理人は、「原判決中第一審白谷運輸及び同白谷の敗訴部分を取り消す。右第一審被告両名に対する第一審被告鵜野の請求を棄却する。右請求に関する訴訟費用は第一、二審とも第一審被告鵜野の負担とする。」との判決を求め、第一審被告鵜野代理人は控訴棄却の判決を求めた。
第二各当事者の主張並びに証拠関係
次のとおり付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、その記載を引用する(ただし、原判決別紙目録記載の土地建物の表示を本判決別紙目録記載のとおり訂正する。)。
一 第一審被告鵜野代理人の陳述
1 第一審被告鵜野は、昭和二五年に亡渡辺金一から建物所有の目的で本件土地を賃借し、同地上の南西部に自己の営む特定貨物自動車運送事業の営業所として使用するため本件建物を建築所有し、本件土地中その余の空地部分は自動車駐車場、貨物積卸場として使用していたが、右空地部分をこのように自動車駐車場や貨物積卸場として使用することも右土地賃貸借の目的である「建物所有の目的」の範囲内に包含されていたものである。第一審被告鵜野は、その後鵜野運輸株式会社(以下鵜野運輸という。)に、ついで被告白谷に対し本件建物を特定貨物自動車運送事業の営業所として賃貸したが、その際建物の賃貸とは別個に本件土地を転貸したことはない。およそ特定貨物自動車運送事業の営業所には自動車駐車場、貨物積卸場が付属することは業界の常識であるから、本件建物の使用目的、右建物の賃借人の営業の性格等からして、右建物賃貸借には空地部分を含む本件土地全体の使用が予定されているのであって、建物賃借人は建物の使用に付随して当然その敷地の空地部分を駐車場や貨物積卸場として利用し得るのであり、右空地部分の使用関係は独立した土地の賃貸借ではない。第一審被告鵜野は、鵜野運輸を主宰していた当時、本件土地の空地部分を駐車場として使用することについての土地所有者の承認書を毎年東京陸運局に提出していたが、亡渡辺金一又は第一審原告はその都度異議なく右承認書に捺印していたのであって、この事実から見ても同人らにおいて本件建物の賃貸借が前記空地部分の使用を包含するものであることを承認していたことが明らかである。したがって、第一審被告鵜野が本件建物の賃借人である鵜野運輸や第一審被告白谷に対し右空地部分の使用を許したからといって、これをもって建物の賃貸とは別個独立に土地を転貸したものということはできない。もっとも、第一審被告鵜野が第一審被告白谷に対し本件建物を賃貸した際、当事者間において本件土地に関するものと本件建物に関するものとの二通の賃貸借契約公正証書が作成されたが、右は、本件建物の賃貸借契約に関する公正証書作成嘱託を受けた公証人が当事者の陳述の趣旨を誤解し、例文が印刷された用紙を便宜使用して公正証書を作成したことによるものであるから、当事者間に本件土地を目的とする転貸借が成立したことにはならない。
2 以上の点に関し、第一審被告鵜野は原審において、同被告が本件土地を昭和二八年九月ごろ鵜野運輸に対し、ついで昭和四四年五月八日第一審被告白谷に対し、それぞれ転貸した旨の第一審参加人らの主張を認める旨陳述したが、右陳述は単に法律上の評価を述べたにすぎず、自白に該当しない。本件建物の賃借人に対し本件土地中の空地部分の使用を許したことが土地の転貸に該当するかどうかは法律評価の問題であって、これを対象とする裁判上の自白が成立する余地はない。仮りに前記陳述が自白に該当するとしても、右自白は真実に反し、かつ、錯誤に出たものであるから、当審においてこれを撤回する。
3 第一審被告白谷は、第一審被告鵜野に対する本件土地建物の明渡を免れ、第一審参加人をして第一審被告鵜野に対し本件土地明渡訴訟をすることを主たる目的として第一審原告から本件土地を買受けるに至らせたものである。したがって第一審参加人の右買受行為は信託法一一条に違反し、無効であり、所有権移転の効果を生じない。
4 右主張が理由がないとしても、第一審被告鵜野は本件土地上に登記ある建物を所有し、本件土地の得喪につき利害関係を有する第三者に該当するところ、第一審参加人は本件土地につき所有権移転登記を経由していないから、その所有権の取得を第一審被告鵜野に対抗することはできない。
二 第一審原告代理人及び第一審参加人代理人の陳述
1 第一審被告鵜野が原審において、鵜野運輸及び第一審被告白谷に対しそれぞれ本件土地を転貸したことを認める旨陳述したのは、法律上の意見の陳述ではなく、事実についての自白に該当するものであり、第一審被告鵜野が当審において右自白を撤回したことに対しては異議がある。
本件土地のうち本件建物の敷地以外の空地部分は、本件建物を使用するについて必要とされる範囲外で、独立して使用収益の対象となりうるものであり、現に建物の使用とは直接関係のない車両置場兼貨物積卸場として従来から利用されてきたのであって、第一審被告鵜野が鵜野運輸及び第一審被告白谷に対し、それぞれ本件建物の賃貸借とは別個に本件土地を転貸したものであることは明らかである。そのほか、この点に関しては第一審被告白谷運輸及び同白谷代理人の後記三・1の陳述を援用する。
2 第一審被告鵜野の主張するように、第一審被告白谷に対する鵜野運輸の経営権の譲渡の事実を公開するときは同会社の従業員の間に動揺が起こり、業務の運営に重大な障害を生ずるおそれがあったと仮定しても、第一審被告鵜野は第一審原告に対し右の事情を説明してこれを他に公開しないことを依頼すれば足りたはずであるから、右の事情は第一審被告白谷に対する本件土地の転貸につき第一審原告の承諾を求めなかったことを正当化する理由とはならない。
3 第一審被告鵜野の前記一・3の主張事実は否認する。
4 第一審原告と第一審被告鵜野との間の本件土地賃貸借契約は、昭和四四年一一月二二日適法に解除されたものであり、第一審被告鵜野は、これにより本件土地についての占有権限を失ったのであるから、右賃貸借の終了後に第一審原告から本件土地の譲渡を受けた第一審参加人に対し登記の欠缺を主張し得る第三者に当たらない。
三 第一審被告白谷運輸及び同白谷代理人の陳述
1 第一審被告鵜野が当審においてした第一審における自白の撤回に対しては異議がある。
同人が被告白谷に対し本件土地を賃貸(転貸)した事実は、次の諸点に照らしても明白である。
(一) 右両者間には本件土地と本件建物との双方につき賃貸借契約公正証書が各別に作成されているのであって、しかも右土地賃貸借契約公正証書には本件土地のうちの一九八・三四平方メートルの部分、すなわち、本件建物の敷地を除いた空地部分が賃貸借物件として表示されている。
(二) また右公正証書には、土地の使用目的が車両置場と明示、限定されている。第一審被告白谷の右土地の使用が本件建物の賃貸借に付随する敷地の利用にすぎないものであるとすれば、建物使用の目的から必然的に土地利用の態様が定まるから、ことさら公正証書に土地の使用目的を明示する必要はないはずである。
(三) 本件土地のうち空地部分は、本件建物の敷地としての利用価値以上に独立の利用価値がある。
(四) 前記二通の賃貸借契約公正証書の原案であるという乙第三号証の一・二においても、賃貸借の目的物として土地と建物とを明確に区別しており、第一審被告鵜野主張のように法律行為に関する嘱託人の陳述の趣旨を公証人が誤解した結果右各公正証書を作成したものと解し得る余地は、全くない。
したがって、第一審被告鵜野の前記自白の撤回は許すべきでない。
2 第一審原告代理人及び第一審参加人代理人の陳述前記二・2及び3と同じ。
四 証拠関係《省略》
理由
第一第一審参加人から第一審被告鵜野に対する建物収去土地明渡請求及び第一審被告鵜野から第一審原告に対する借地権確認請求について
一 第一審被告鵜野が昭和二五年一月ごろ渡辺金一から同人所有の本件土地を普通建物所有の目的で賃借したこと、第一審原告が昭和四四年五月八日右金一の死亡に伴い、本件土地の所有権を相続により取得するとともに、本件土地の賃貸人たる地位を承継したことは、当事者間に争いがない。
二 そこで、第一審原告及び第一審参加人の無断転貸を理由とする右賃貸借契約の解除の主張について以下順次判断する。
1 第一審被告鵜野は、本件土地上に本件建物を建築所有していたが、昭和二八年九月ごろ特定貨物運送を業とする鵜野運輸を設立して同会社に対し本件建物を賃貸し、その後昭和四四年四月二八日同人所有の鵜野運輸の発行済全株式四、〇〇〇株並びに鵜野運輸の営業権及び営業用財産全部を第一審被告白谷に譲渡し、第一審被告白谷が第一審被告鵜野に代って鵜野運輸の代表取締役に就任したこと、その際第一審被告鵜野は鵜野運輸との間の右建物賃貸借契約を合意解除し、同年五月八日第一審被告白谷に本件建物を賃貸したこと、第一審被告白谷は同日更に第一審被告白谷運輸に本件建物を賃貸するとともに本件土地を転貸して占有使用させたことは、いずれも当事者間に争いがない。
2 第一審原告及び第一審参加人は、「第一審被告鵜野は、鵜野運輸に対し本件建物を賃貸するのと同時に本件土地を転貸し、その後右建物及び土地の各賃貸借契約を合意解除したうえ、第一審被告白谷に対し本件建物を賃貸するのと同時に本件土地を転貸した。」と主張するのに対し、第一審被告鵜野は、原審においては右主張事実を認める旨陳述したが、当審に至り本件土地についての右各転貸の事実を否認し、本件土地について第一審被告鵜野は地上建物の賃借人である鵜野運輸及び第一審被告白谷に対し空地部分を車両置場等として使用することを許諾したにすぎず、同人らによる本件土地の使用は地上建物の使用に付随する敷地利用の関係にとどまるから、右使用の許諾をもって独立した土地の転貸借ということはできず、原審における前記陳述は法律上の評価を述べたもので自白に該当しない旨主張するに至った。
しかし、転貸という用語は、売買や賃貸借という用語と同様に、一般にはその内容をなす具体的事実を表現するものとして常識的に通用している用語であるから、土地を転貸したことを認める旨の陳述は、目的土地につき賃借人の支配から独立して排他的な使用収益をすることを第三者に許諾した事実を認めたものにほかならないのであって、右陳述は事実についての自白であると解すべきであり、これをもって単なる法律的評価に関する意見の陳述であると見るのは当たらない。したがって、第一審被告鵜野は原則として右自白に拘束されるものといわなければならない。
ところで、第一審被告鵜野は、右自白は真実に反し、かつ錯誤に出たものである旨主張するので、右主張の当否について検討する。
(一) 《証拠省略》によると、本件土地の面積は二八八・四九平方メートルであるところ、その南西部に公道に面して出入口を設けた本件建物(一階床面積四五・四五平方メートル)が存在し、残余部分は北東側に倉庫兼便所兼洗濯場一棟(昭和二八年ごろ第一審被告鵜野によって建築された木造建物を昭和四八年ごろ第一審被告白谷運輸が同規模のブロック造り建造物に建て替えたもの。)及び荷物置場として使われているビニール波板屋根の仮設建物一棟(第一審被告白谷運輸が昭和四七年ごろ建築したもの)があるほかは広い空地となっていること、本件建物は事務所兼居宅であり、右の空地は本件建物を通常の事務所兼居宅として使用するについて必要とされる建物敷地の範囲をはるかに超えていること、他方、前記ブロック建造物及び仮設建物を含む右空地部分の形状はほぼ正方形をなし、公道から出入自在となっており、その公道に接する間口は一二メートルを超え、本件建物を使用しない場合でも右空地部分のみで十分独立した利用価値を有し、現に第一審被告白谷運輸により車両置場として利用されていることが認められ、また、弁論の全趣旨によると、鵜野運輸が直接第一審被告鵜野から本件建物を賃借していた当時の前記空地部分の使用状況も、右に認定したところと大差のないものであったことがうかがわれる。
以上認定の事実によれば、本件土地のうち本件建物の敷地として必要な部分以外の部分(以下これを「更地部分」という。)は、本件建物の賃貸借とは別個独立に鵜野運輸(及びその後身である第一審被告白谷運輸)により車両置場等の自動車運送事業用施設の用地として使用収益されていたものと認めるのが相当である。
第一審被告鵜野は、本件建物は同人の営む特定貨物自動車運送事業の営業所として使用するために建築したものであり、鵜野運輸及び第一審被告白谷との間の本件建物の賃貸借も鵜野運輸の営む特定貨物自動車運送事業の営業所として使用させるためになされたものであるから、右各建物賃貸借契約には本件土地全体の使用が予定されていたものである旨主張するが、《証拠省略》によれば、車両置場、貨物積卸場等が営業所の所在地に併設されていることは、貨物自動車運送事業の経営上有利ではあっても必要不可欠の条件というわけではなく、車両置場等の貨物自動車運送事業用施設を営業所の建物の所在場所以外の場所に設けている業者も少なからず存在することが認められるから、同事業の営業所として使用する建物は、その敷地内に車両置場等の事業用施設が付置されていなければ営業所用建物としての効用を全うすることができないものとは到底認め難く、本件建物の賃貸借契約において、建物賃借人が本件土地中の前記更地部分を建物敷地の一部をなすものとして建物所有者の支配の下に使用収益することが、契約の性質上当然に予定されていたものと解することはできない。
なお、第一審被告鵜野が鵜野運輸を主宰していた当時、渡辺金一又は第一審原告において同会社が毎年東京陸運局に提出する本件土地の更地部分を駐車場として使用することについての土地所有者の承認書に異議なく捺印していた旨の第一審被告鵜野主張事実は、必ずしも本件建物の賃貸借が前記更地部分の使用を当然に包含するものであることの証左とはなり得ないのであって、渡辺金一らにおいて鵜野運輸による右更地部分の使用収益に対し異議を述べなかった理由は、後記二・4において説示するとおり、当時の鵜野運輸の実体は第一審被告鵜野の個人企業と同然であったためと認められる。
(二) しかも、《証拠省略》によると、第一審被告鵜野と鵜野運輸との間には昭和二八年五月二四日本件土地八二坪五合及び同地上の本件建物を目的とする土地建物賃貸借契約書が作成されていること、鵜野運輸の昭和四二年一〇月一日から翌四三年九月三〇日まで及び同年一〇月一日から翌四四年七月一二日までの各損益計算書には、本件建物の家賃と本件土地の地代とが家賃地代として一括計上されていることが認められ、第一審被告鵜野の当審における本人尋問の結果中、右各損益計算書に家賃地代と表示されているのは本来家賃と記載すべきところを事務員がゴム印を押し間違えたものである旨の供述部分は、同人の他の供述部分によって認められるように右各損益計算書が計理士の調製にかかるものであることにかんがみると、たやすく信用することができない。
(三) また、《証拠省略》を総合すると、第一審被告鵜野と第一審被告白谷との間で昭和四四年五月八日本件土地及び本件建物につき各別に賃貸借契約公正証書(丙第一、二号証)が作成されており(右の事実は当事者間に争いがない。)、右各公正証書には、賃貸物件の使用目的として土地については車両置場、建物については住居兼事務所と、賃料は土地につき一か月金八万円、家屋につき一か月金二万円と、また賃貸借の目的土地の面積として一九八・三四平方メートルと各明記されていること、右賃貸借の目的土地一九八・三四平方メートルとは、本件土地のうち本件建物の敷地部分約二七坪を除いた残余の更地部分六〇坪を指称するものであることが認められる。この点につき第一審被告鵜野は、右各公正証書は本件建物についての賃貸借契約公正証書の作成嘱託を受けた公証人が当事者の陳述の趣旨を誤解した結果二通に分けて作成したものであって、本件土地については賃貸借の合意は存しなかった旨主張し、第一審被告鵜野の原審(第一回)及び当審における本人尋問の結果中には右主張に添うかのような供述部分も存するけれども、丙第一、二号証の公正証書は、その方式及び趣旨に照らし、公証人法の定める要件を具備し、同法所定の手続を踏んで作成されたものであることが明らかであるから、このことから考えると、前掲供述部分は信用するに足りないし、また、《証拠省略》も右各公正証書の記載に対する反証とはなしがたく、他に第一審被告鵜野の前記主張事実を肯認し得る証拠はない。
(四) 以上(一)ないし(三)に認定したところを総合すると、第一審被告鵜野が本件土地を鵜野運輸に、次いで第一審被告白谷に転貸したことを認める旨の右鵜野の原審における自白は、少なくとも本件土地のうち前記更地部分六〇坪に関する限り真実に反するものとは認められず、かえって同人は、鵜野運輸、次いで第一審被告白谷に対しそれぞれ本件建物を賃貸した際、右建物賃貸借とは別個に右建物賃借人らに対し、本件土地のうちの前記更地部分を車両置場等の貨物自動車運送事業用施設用地として賃貸(土地所有者から見れば転貸)することを約したうえ、同部分を引渡した事実が認められるのである。したがって前記自白の撤回は、前記更地部分に関しては許容することができない。
しかしながら、本件建物の敷地部分の転貸の有無について考えると、借地上に建物を所有する者が右建物の賃借人に対し建物の敷地を転貸することは、理論上全くあり得ないというわけではないが、実際上は極めて異例のことであるし、しかもその場合には、両者の間に複雑な法律関係が生ずるところ、第一審被告鵜野と本件建物の賃借人である鵜野運輸及び第一審被告白谷との間において、本件建物の敷地に関し右のような複雑かつ異例な法律関係を形成する特段の必要性があったことを認めさせる資料は本件において見当たらないので、本件建物の賃借人らによるその敷地部分の占有使用は、賃借建物の使用収益に当然付随する敷地利用関係にすぎず、第一審被告鵜野が本件建物の賃借人に対しその敷地部分を転貸した事実はなかったものと認めるのが相当である。したがって、第一審被告鵜野の前記自白中本件建物の敷地部分の転貸を認めた部分は、真実に反するものというべきであり、かつ、特段の事情の認められない限り錯誤に出たものと推認し得るから、この部分についての自白の撤回は許容すべきである。
3 以上説示のとおりであって、第一審被告鵜野が、昭和二八年九月ごろ鵜野運輸を設立した際、同会社に対し本件土地のうち前記更地部分を転貸し、その後鵜野運輸の株式、営業権、営業資産を含む一切の経営上の実権を第一審被告白谷に譲渡した際、同会社との右転貸借契約を合意解除し、あらためて昭和四四年五月八日第一審被告白谷に対し前記更地部分を転貸した事実は、当事者間に争いがないものとすべきである。もっとも、第一審被告鵜野が鵜野運輸及び第一審被告白谷に対し、本件土地のうち本件建物の敷地部分約二七坪を転貸した事実は、前述のとおりこれを認めることができない。
しかして、第一審被告鵜野が第一審被告白谷に対する前記更地部分の転貸について第一審原告の承諾を得なかったこと、第一審原告が第一審被告鵜野に対し、昭和四四年一一月二二日到達の書面をもって、本件土地を第一審被告白谷に無断転貸したことを理由として本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。
4 そこで、第一審被告鵜野の前記更地部分の無断転貸が第一審原告に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情の有無について検討する。
《証拠省略》を総合すると、第一審被告鵜野は、本件土地上に建築した本件建物を営業所、従業員宿舎として当初は同人の個人名義で貨物自動車運送事業を営んでいたものであって、前述のように昭和二八年九月ごろ鵜野運輸を設立した際同会社に対し本件建物を賃貸するとともに本件土地のうち前記更地部分を転貸したのであるが、右鵜野運輸の実体は第一審被告鵜野の個人企業と同然であった(この点は当事者間に争いがない。)ため、前記更地部分を鵜野運輸が車両置場等の貨物自動車運送事業用施設として使用することについては、賃貸人である渡辺金一は何らの異議も述べなかった(渡辺金一が第一審被告鵜野の右転貸行為を咎めることなく推移した事実は当事者間に争いがない。)こと、鵜野運輸は昭和四四年初めごろ、大型八トン車両六台、運転手約一一名を保有し、水揚月額二七〇万ないし三〇〇万円近くの実績を有していたが、そのころ第一審被告鵜野は、長距離輸送に伴う交通事故の危険度の増大にかんがみ鵜野運輸の経営の先行きに不安を感じ、加えて当時長距離輸送には車両の大型化の必要を生じていたのに本件土地は手狭でその要請を満たし得ないため、鵜野運輸の経営の実権を他に譲渡したうえ本件土地上で長男と共に小型運送事業及び自動車修理工場を経営することを計画し、同業者である天野運輸株式会社の代表取締役天野信二に対し鵜野運輸の譲受け方を求めたところ、同人の取引上の知人であった岡田章を介して久留米運送株式会社の専務取締役であった第一審参加人を紹介されたこと、第一審被告白谷は、当時福岡県柳川市内で主として九州東京間の物品輸送を目的とする運送業を営んでおり、東京進出をかねてから企図していたので、第一審参加人から第一審被告鵜野の意向を聞知するに及び鵜野運輸の営業用財産及び営業権を譲り受けることを決意するに至ったこと、右のような経緯から第一審被告鵜野と第一審被告白谷との間において昭和四四年四月二八日に鵜野運輸の発行済株式四、〇〇〇株、鵜野運輸所有の車両及び運搬具(附属、工具等一切を含む。)並びに営業権につき譲渡代金四五〇万円とする譲渡契約が成立したこと(営業権等の譲渡の事実及びその日時は当事者間に争いがない。)、その際第一審被告鵜野は、前述のとおり鵜野運輸の経営上の実権を譲渡した後は本件土地を自己の事業の用に供する計画を有しており、本件建物も近く取り毀す予定であったため、鵜野運輸の第一審被告鵜野に対する前記更地部分の転借権及び本件建物の賃借権を右譲渡の対象から除外し、前記のとおり鵜野運輸との間の右賃貸借契約を合意解除したこと、その際右鵜野は第一審被告白谷に対し今後鵜野運輸は他の場所に営業所を移転することを求めたところ、これに対し第一審被告白谷は、鵜野運輸の営業所として適当な場所を見付けるまでしばらくの間、本件土地のうち更地部分及び本件建物を鵜野運輸がそれぞれ車両置場、住居兼事務所として従前どおり使用することを認めて貰いたい旨懇請したこと、そこで第一審被告鵜野も右懇請をむげに断りかね、鵜野運輸が他に移転するまでの暫定的措置として期間満了時には無条件で必ず返還するよう念を押したうえ、昭和四五年二月七日まで向う九か月間前記更地部分及び本件建物をそれぞれ車両置場、住居兼事務所として一時使用させる目的で第一審被告白谷に賃貸(前記更地部分については転貸)することを承諾し、賃料は土地につき一か月八万円、建物につき一か月二万円と定め、昭和四四年五月八日その旨の各賃貸借契約公正証書を作成したこと、そのころ第一審被告白谷は右更地部分及び本件建物を鵜野運輸に転貸(更地部分については再転貸)して鵜野運輸をして使用させるに至ったこと(前記更地部分及び本件建物についての第一審被告鵜野と同白谷間の賃貸、第一審被告白谷と同白谷運輸間の転貸の点は当事者間に争いがない。)、その後第一審被告白谷及びその事業上の顧問である第一審参加人は鵜野運輸の営業所の移転先を見付けるべく奔走したが、適当な場所を見付けることができないうちに前述のように同年一一月二二日第一審原告から第一審被告鵜野に対し、同白谷への無断転貸を理由とする本件土地の賃貸借契約解除の意思表示がなされるに至ったこと、以上の事実を認めることができ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。なお、後記認定のとおり、第一審原告は、右賃貸借契約解除の意思表示をした直後の同年一二月六日本件土地を前記第一審参加人に譲渡したものである。
以上のとおり、第一審被告鵜野は同白谷に本件土地中の更地部分を転貸したものであるところ、同鵜野が同白谷に鵜野運輸の経営の実権を譲渡したうえ、右更地部分を転貸した事実を賃貸人である第一審原告に秘匿し、かつ、右無断転貸により第一審原告との間の本件土地賃貸借における賃料である一か月金六、五〇〇円の一〇倍以上に当たる一か月金八万円の賃料を右白谷から取得している事実は当事者間に争いがない。しかしながら、前記認定の事実によれば、第一審被告鵜野が同白谷に対し本件建物を賃貸し、右更地部分を転貸したのは、同白谷において鵜野運輸の営業所を直ちに他に確保することができなかったため、同人の懇請により止むをえず右移転先のきまるまで一時使用の目的で貸与したのであり、同鵜野は引続き自ら本件土地を使用することを意図していたものであること、右の約定による転貸借期間は九か月という比較的短期間であったこと、右転貸後も右更地部分は従前同様鵜野運輸の車両置場としてその営業の用に供され、その使用態様に格別の変更はなかったものであることが明らかであり、右転貸が賃貸人に具体的な不利益を生ぜしめたものとは認め難い。また、《証拠省略》によれば、右鵜野は、右更地部分を右白谷に貸与する以前においても鵜野運輸に対する本件家屋及び右更地部分の賃貸により年間約金一一三万円の賃料を収受していたものであり、白谷に対する前記賃貸によりにわかに莫大、不当な転貸賃料を取得するに至ったものではないことが認められ、さらに、右賃料の取得を目的として右白谷に転貸したものでもないことは前記のとおりである。なお、前掲第一審被告白谷の供述によれば、右白谷が鵜野運輸を経営するようになってからも、同会社の従来の取引先等に対する関係から会社名はそのまま鵜野運輸とし、昭和四四年一〇月末頃まで右鵜野を取締役会長名義で同会社に残留させていたことが認められる。
以上の諸事情を合わせ考えると、第一審被告鵜野が同白谷に鵜野運輸の経営の実権を譲渡し、本件土地の更地部分を一時使用にせよ転貸したことを直ちに第一審原告に申出なかったことは、穏当を欠くものであったというべきであるが、右無断転貸は、いまだ賃貸借契約当事者間の信頼関係を破壊するような背信行為であると認めるに足りず、これをもって本件賃貸契約の解除原因とすることはできないものというべきである。
したがって、右無断転貸を理由としてした第一審原告の解除の意思表示はその効力を生じなかったものといわざるを得ない。
三 《証拠省略》を総合すると、第一審参加人は昭和四四年一二月六日第一審原告から本件土地を代金一、五七〇万八、六〇〇円で買い受ける契約をし、同月一七日本件土地につき売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を経由した事実が認められるが、第一審参加人が所有権移転の本登記を経由していないことは第一審参加人及が第一審原告において明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。そうすると、第一審原告がした本件土地の賃貸借契約解除の意思表示が前段説示のようにその効力を生じなかったものである以上、第一審被告鵜野は、依然として本件土地につき賃借権を有し、第一審参加人の所有権の取得について登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当するものというべきであるから、第一審参加人は本件土地の所有権の取得を第一審被告鵜野に対抗することができない。したがって、第一審参加人の所有権に基づく第一審被告鵜野に対する建物収去土地明渡請求は、すでにこの点において理由がないのみならず、第一審原告と第一審被告鵜野との間においては本件土地は全体として建物所有の目的で一個の契約により賃貸されたものであることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば第一審被告鵜野は本件土地上に所有する本件建物につき昭和四一年二月一六日保存登記を経由していることが明らかであるから、よしんば第一審参加人が本件土地につき所有権移転の本登記を経由した場合であっても、第一審被告鵜野から建物保護法に基づき賃借権の対抗を受ける筋合いであって、しょせん第一審参加人の右請求は排斥を免れないものである。
次に、第一審原告は第一審被告鵜野に対し本件土地の賃貸人としてこれを使用収益させるべき義務があるにもかかわらず、同第一審被告の賃借権の存在を争っているのであるから、第一審原告に対し賃借権の存在の確認を求める第一審被告鵜野の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。
第二第一審被告鵜野から第一審被告白谷運輸及び同白谷に対する建物退去土地明渡請求について
一 第一審被告鵜野が第一審被告白谷に対し昭和四四年五月八日本件建物を賃貸して引渡した事実は当事者間に争いがない。その際第一審被告鵜野が第一審被告白谷に対し同時に本件土地を賃貸(土地所有者との関係では転貸)した事実は原審において当事者間に争いのなかったところであるが、当審において第一審被告鵜野は、本件土地は本件建物を使用収益させるために第一審被告白谷に引渡したもので、これを賃貸(転貸)した事実はない旨主張するに至った。しかし、右主張の変更は前記第一・二・2において判断したとおり自白の撤回に該当するものであるところ、前記第一・二・2及び3において判示したところと同一の理由により、右自白の撤回は本件土地のうち更地部分に関しては許容することができず、第一審被告鵜野は第一審被告白谷に対し、本件建物を賃貸するのと同時に本件土地のうち本件建物の敷地部分を除くその余の更地部分一九八・三四平方メートルを賃貸(転貸)したことは当事者間に争いのないものとすべきである。
そして、右に述べた本件建物の賃貸借契約と本件土地中の更地部分の賃貸借(転貸債)契約とは別個の契約であることは、前記第一・二・2・(四)において述べたとおりであるが、前記更地部分の賃貸借(転貸借)が期間を昭和四五年二月七日までとし、一時使用を目的とするものであったことは当事者間に争いがなく、本件建物の賃貸借も右同様期間を昭和四五年二月七日までとし、一時使用を目的とするものであったこと並びに賃料は本件建物につき一か月金二万円、前記更地部分につき一か月金八万円の約であったことは、既に第一・二・4において認定判断したとおりである。
二 第一審被告白谷運輸及び同白谷の提出した本件更地部分の返還による明渡請求権消滅の抗弁は、第一審原告と第一審被告鵜野との間の本件土地の賃貸借契約が昭和四四年一一月二二日第一審原告のした解除の意思表示により有効に解除された結果終了するに至ったことを前提とするものであるところ、右解除の意思表示がその効力を生ぜず、したがって第一審被告鵜野は現在もなお本件土地につき賃借権を有することは既に第一・二・4及び第一・三において説示したとおりであるから、右抗弁はその前提を欠くものであって、採用することができない。
三 そうすると、第一審被告鵜野と第一審被告白谷間の本件建物及び前記更地部分についての各賃貸借(更地部分については転貸借)契約は、昭和四五年二月七日限り期間満了によって終了したものというべきである。そして、第一審被告白谷運輸が昭和四四年五月八日第一審被告鵜野の承諾を得て本件建物及び前記更地部分を第一審被告白谷から転借し、これを占有使用している事実は当事者間に争いがないところ、前叙認定のとおり第一審被告鵜野と同白谷との間の本件建物及び前記更地部分についての各賃貸借(更地部分については転貸借)が昭和四五年二月七日の経過により終了したものである以上、第一審被告白谷運輸と同白谷との間の転貸借契約は、もはやその基礎を失い、賃貸人である第一審被告鵜野に対して対抗し得なくなったものというべきである。
四 以上によれば、第一審被告鵜野の第一審被告白谷運輸及び同白谷に対する本訴請求は、本件建物及び前記更地部分についての各賃貸借(更地部分については転貸借)契約の終了を原因として本件建物及び前記更地部分六〇坪の明渡しと右契約終了の翌日である昭和四五年二月八日以降右建物明渡済に至るまで一か月金二万円、前同日以降右更地部分明渡済に至るまで一か月金八万円の割合による賃料相当額の損害金の連帯支払を求める限度で理由ありとして認容し、これを超える部分(本件土地のうち本件建物の敷地部分の明渡を求める請求部分)は失当として棄却すべきである。
第三結論
よって、当審の叙上の判断と符合しない原判決を変更することとし、また、原判決中第一審被告白谷運輸及び同白谷の敗訴部分に対する右第一審被告両名の控訴は理由がないので棄却することとし、民事訴訟法三八四条、三八六条、八九条、九二条、九三条、九六条に従い、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言を付することを不相当と認め、その申立てを却下する。
(裁判長判事 外山四郎 判事 近藤浩武 鬼頭季郎)
<以下省略>